君とのふとした思い出は、日常の些細な部分に隠されていて、ほんの何気ない場所や自分の行動に突然フラッシュバックする。
旅先や遊園地、二人で過ごした部屋、よく訪れたカフェ。そんないわゆる思い出の場所ではなく、ほんの一回ゆきずりで行った印象の薄い店だったり、なんでもない道だったり、どうでもいい歌だったり、きっとそんなとこにもたくさん散りばめられていて、予期せぬ場面で僕に突然触れるんだ。
それは思い出そうとしても、思い出せない、些細な些細な瞬間という思い出。流れ星みたくドラマチックなものでなく、日常のどこにでもあるようなもの。蛇口から溢れる一滴の水音みたいに、とるに足りない瞬間。
今日もまた、君と行ったこともない店なのに、店の雰囲気や氷の溶けた音色、ただのコップの位置に、君の存在を確認したんだ。
それは胸がチクっとするけど悲しいものではなく、優しくって淡い淡い痛み。
ふと、どうしてるんだろうな?と気になって、だけど連絡先も知るわけもなく、どうしても連絡とりたいわけでもなく、僕はその優しくって淡い痛みに一人、時間をあずけた。
きっとこのことは店を出て家に着く頃にはなくなってる感情なんだろう。だけどそこにあった確かな過去や、ちょっぴり成長したかなと思える自分に、どこかホッとする。
僕が相変わらず止めることの出来ないタバコを灰皿に押し付けると、「いい加減にタバコ止めぇや」と、まるで君が言ったかのようなタイミングで、隣の席の女性が、彼氏に言った。
そう、君はいつもタバコを付けた瞬間ではなく、消すときに言っていた。
ここにもまた君がいた。
『この一箱で止めるから』彼氏が言う。
「あかん、それが最後の1本や!」彼女が言う。
『じゃあ一箱千円なったらやめるから』彼氏がボケる。
「なんで増えてるねん」彼女がつっこむ。
『そーいうことじゃなくて』「どーゆーことやねん」・・・
僕は、それを最後まで見届けたいのを堪えて店を出た。そして君との思い出をすっと胸の奥に閉じ込めたんだ。
写真:RiKiKi
文 :雨樹一期


16 June 2008

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